文系社会人が大学レベルの数学と物理を学び直して。つまづくポイントや頻出定義など

社会人学生1年目が終了

正確には1月から期末試験期間に入るので学期自体はまだ終わっていないのだが、一通りの授業は受け終えたのでこのタイミングで振り返りをしておこうと思う。この1年で学んだことを羅列してみた。

物理(前期)
  • 入門力学(落下運動、変数分離、減衰振動)
  • 入門電磁気学(クーロンの法則、ガウスの法則)
  • 入門相対論(ローレンツ変換、コンプトン散乱、ローレンツ変換
  • 基礎物理学実験
  • 振動・波動学(減衰・強制振動、二重・多重振り子)
数学(前期)
物理(後期)
数学(後期)

高校3年〜大学2年の理系科目を1年で猛追

理系の勉強をしたことがある方ならわかると思うが、内容的には高校3年の数学3C・物理〜大学2年の物理・数学までをこの一年で同時並行で学んだ。教養科目が全て単位互換で取る必要がないので物理と数学で授業は固められている。前期は月〜土の週6日、後期は火〜土の週5日、基本的に会社の仕事は17時〜18時で切り上げて、18時〜21時は毎日授業を受ける生活を送っていた。当たり前だがこの一年で飲み会に参加した回数は両手で数えるほども無いぐらい。期末試験期間は有給と夏休みを駆使して切り抜けたものの、あまりの疲労に最後は熱を出しながら試験に出る始末だった。

文系社会人が理系科目を勉強する壁

大学の授業では覚えるべき概念が高校の科目に比べて一気に増える。数学も物理もこれまで習ってきた定義をより深掘りして、さらにその導出に細かいテクニックが多数使われる。変数もギリシャ文字が多用されて初見では読むことがままならない。社会人が理系科目を学び直すにあたって、正直こればかりは慣れてくれとしか言いようがない。そのため多くの人は、この基礎固めの段階で挫折するのではないかと思う。イメージとしては数学に120時間、物理に80時間、できれば短期間で一気に概念理解から基本的な例題・問題を解くところまでやってしまうのが望ましい。

授業を改めて受けて感じるが、大半の授業は1から10の道のりを特にゴールを指し示すことなく、一歩ずつ進むような形式で講義が行われている。例外的に相対論などは最初にゴールを学ぶので頭に入ってきやすいのだが、それ以外の科目については基本的に全体感を掴むことなく断片的に講義が進む。これは結論ファーストを義務付けられるビジネスの世界の感覚とは、根本的に反りが合わない。結局、授業の理解は全体感が出揃う期末試験直前まで、よくわからないというのが正直なところだった。また大学の物理学科では、物理の概念よりも先んじて数学の知識(特に微分積分)が必須となる。どれだけ頑張って物理の概念を覚えても、数式として落とし込むことができなければ何の役にも立たない。話に聞いて頭で理解はしていたが、最初にこの感覚を身に付けるまでの壁はとても高かったと今でも感じる。

頻出する定義

以下の項目については、授業に関わらずあちこちで使われるのでまず最初に頭に入れておくことをおすすめする。

高校数学から離れていると、三角関数微分やベクトルなど忘れてしまってることも多いと思うので一通り復習しておきたい。テイラー展開についても最初は公式を丸暗記で問題ない。大学の数学、物理では高校まで使っていた概念がどんどん相互に絡み合って、結果的に複雑な公式や概念がどんどん出てくる。独学で書籍を買っているとこれらの定義が何となく最初の方に出てきて特に注視することもないだけに、講義を受けて教授が重要な公式を繰り返し説明してくれることには意味があるなとも感じた。

社会人4年目。26歳で理学部物理学科に進学

26歳、社会人4年目春、大学に再び通い始めた。専攻は物理。高校2年生で理系の科目の勉強は完全に止まっているので、約10年人生を遡り高校レベルの数学・物理から学び直している。

これまでの経歴

大学は法学部を卒業して、新卒では大手人材企業に入社。その後コンサルに転職して一年海外で働いた。年収も昨年から1,000万円を越えて、文系大学卒のキャリアとしては順風満帆な方だと思う。一方でどこか月並みなエリート街道を登っていることに自分自身どこか違和感を感じ続けていた。ビズリーチやLinkedInを通じて今の給与にさらに上積みされたオファーは今でも毎日のように飛んでくる。1年前の自分はその金額を見て幾度となく心躍ったものだが、慣れてくるとただの数字遊びにしか感じなくなった。

ビジネス書も自己研鑽と思って何十冊と読んだが、今となっては忘却の彼方で、平積みされた本は部屋の片隅で埃がかぶったまま。学生時代に一緒に留学していた友人と起業しようと思い立ち、毎月のように顔を合わせて朝から晩までブレストもした。Webメディア、Eコマース、業務効率化、AI、人材紹介、マッチングアプリ、仮想通貨、モビリティ。これでもかとNewsPicks、東洋経済、FastGrowあたりで、毎日のように見かけるビジネスアイデアが溢れ出てきた。が、結局どのアイデアにしても今の仕事の方が稼げるし、社会貢献もできるし、安定もするなという結論に至った。

世の中に出てくる新しいビジネスを目にしては斜め上から批評はする。でもいざ自分でやろうと思うと面倒。できることなら誰かに乗っかって仕事をしていたい。でも今の安定を捨てるのは怖いし、やるからには個人での稼ぎを作るなり、貯金をそれなりの額貯めるなり地盤が固まってから何かを始めたい。

お金にちょっと余裕を持ち始めた一昨年頃から、「自分は量産型で意識だけ高いただのエリートサラリーマンだなぁ」と一人虚しさを感じるようになった。きっと同じようにこんな感じでモヤモヤしながら、これぐらいでいっかと自分に妥協し、割り切って生きている同世代は少なくないと思う。だってできることなら楽して生きていたいから。

やりたいことなんて正直無い

学生時代は華々しい社会人生活に憧れたものだ。でもいざ高給取りになってエリート街道を歩んでいると、まあなんとも虚しい人生だなと感じてくる。親族にいる医師や消防士の方がよっぽどきつい仕事をして社会にも貢献しているのに、自分はその半分ぐらいの仕事量で、彼ら以上にお金をもらっている。今の仕事が面白くないわけじゃない。自分だから成し遂げられた・本気で向き合った仕事はこれだと、将来自分の子供に胸を張って言えることが一つもないのだ。そして今と同じ地平線にあるキャリアを歩む限りそれは変わらなそうだ。

起業して自分で何かを成し遂げてみたいという思いはある。けど何かやりたいことがあるわけでもないし、少なくとも今この時点で自分たちが思いついてできる何かには全くワクワクしないし、将来胸を張れないことだけは分かってる。だったらいっそのこと大学に入り直して何かしらの専門性を身につけた上で、もう一度ビジネスの世界に戻ろう。なんとも無謀としか言いようのない計画である。でもしょうがない。今心から挑戦したいと思えることがそれしかないのだから。笑

社会人大学生の障壁

今回、大学に入り直すにあたってはもちろん障害があった。まず学費が3年で250万円。やっと役職もついたり、お金もたまってプライベートも楽しくなってくるこのタイミング。親の援助無しでこの決断はそれなりにきつい。とはいえ中学から私立に通わせてくれた親のすねを今更かじるわけにはいかないので、会社と交渉して昨年から副業をさせてもらい、必要なだけのお金はなんとか稼いだ。

次に仕事と勉強の両立。夜間大学を選ぶことで昼は仕事、夜は授業というスタイルを確立した。それでも十分な仕事量を確保するために朝早く会社に行き、授業後や休日に自宅で作業するなんてことも当たり前。しかも文系卒なので、数学も物理も高校レベルからやり直している。入学前からスタディサプリにかじりついていたので、授業が全く分からないというわけではないが、それでも予習と復習は必須だ。最近読んだ本と聞かれると、教科書と参考書しか頭に思い浮かばないぐらいには受験生のような日々を送っている。仕事 -> 勉強 -> 飯・睡眠 -> 仕事 -> ... -> 勉強。このループが延々と繰り返されている。

大学に入る意味

今の時代やろうと思えば別に大学に入る必要なんてあまりない。オンラインの授業は日本語、英語問わず充実しているし、専門分野の本だっていくらでも出版されている。知識をつけるという意味では大学に通うメリットは正直ゼロだと思う。ではそれも分かった上での大学は何かというと、大きく3つある。自分の実力を測る定期試験の存在。成績という社会的な信頼と実績。最後に研究と実験。

2つ目までに関しては個人でもなんとかしようと思えばできる範囲。でも研究と実験になると話は別。どんなに基礎学力があっても、それを活かす環境を個人で作るには限界がある。特に理系分野で最先端の研究になればなるほどお金も人も設備もいる。なんの実績もない文系ビジネスマンが突然企業の研究職につけるわけはなく、残された道は大学に入り直すことだけになる。修士も調べたところ学部を卒業していれば、文理関係無く院試はどこも受けることができるのだが、流石に理系のバックグラウンドゼロの学生をいきなり最先端の研究室が受け入れてくれる可能性は限りなく低い。入ったとして何もできないことはわかっているので、地に足つけて前に進むという意味でも学部からやり直すことを選択した。ただ自分が入学した大学は社会人特別入試というのがあり、学部2年で編入ができた。かつ院試の受験資格はあるので、来年院試を受けることも視野に入れており、一般的な大学生の道のりに比べるとショートカットの選択肢が多い。

何を学ぶのか

気が早いと言われるかもしれないが、研究室探しは学内外問わずに始めた。今目をつけている分野としては、ブレインマシンインターフェース、ニューロフィードバック、光遺伝学、バイオインフォマティクスと、脳科学神経科学、生物工学に関わる専門分野である。物理からは遠いのではと感じる方もいるかもしれないが、研究内容を調べてみると物理、数学、化学、生物、情報工学と幅広い知識を求められることが分かる。もちろんこの手の分野は医学部や生物系の学部から進むのが王道ではあるものの、修士の説明会に足を運んでみると物理出身の学生は中々教授からは好意的だったりもする。

最近はIT化が進んでいるので、どの分野に進んでも当たり前のようにPythonやRでコードを書いて、機会学習や統計学の手法を使っているし、修士に行けば英語で論文を書くのは当たり前。研究も深ければ深いほど、学問ごとの領域がどんどん曖昧になっていくので、今やっている物理や数学の勉強は間違いなく2年後、3年後の研究で活きてくるなと実感している。一方で院試は今勉強しているものがそのまま使えない可能性もあるので、そこは独学で生物を頑張ろうと考えている。

もう一度アカデミックの世界に足を突っ込んでみて

前述したように毎日は体力的にも精神的にも大変である。でも生活はとても充実しているし、このタイミングで理転するという選択肢を含めて、何か自分たちにしか成し遂げられないことがありそうな予感まではしてきている。1回目の大学生活よりも何十倍も効率よく勉強できていると思うし、モチベーションもめちゃくちゃ高い。それはやっぱり社会人を一度経験しているということが大きいし、この先に繋がっているビジネスが誰もが簡単に手を出せない挑戦的なものだと分かっているからでもある。もし本当に前述した専門分野で将来事業を興し、それなりの規模にまでビジネスとして成立させることができたなら、自分の人生に思い残すことも大分少なくなる気がしている。

高校生の時はあんなに毛嫌いしていた数学や物理も、もう一度基礎から学びなおしてみるとなんとも面白い学問である。相対性理論の授業については、授業を受けながらアインシュタインの発想と論理性の美しさに感動すら覚えた。高校生の時はなんとなく周りに流されて、理系の勉強は面白くないもの、自分には向いてないものと先入観で決めつけていただけなのかもしれない。

これから3年でちゃんと大学を卒業するかもわからなければ、いい研究室に巡り合えるかどうかもわからない。その先に自分たちで起業なんて、夢のまた夢ではあるのだが、少なくとも文系エリート街道からは大きく枠を外れて自分たちなりの歩みを始めたのは間違いない。同じような悩みを持つ同世代やこれからの世代の人たちにとって少しでも足しになればと思うので、今後継続的に勉強内容や生活スタイルなんかもブログを通じて綴っていければと思う。